JAFも「各部の点検を行うまでは、エンジンは始動させないでください」としています。ハイブリッド車・電気自動車・プラグインハイブリッド車・燃料電池車は、さらに一段強い扱いです。国土交通省も各メーカーも「高電圧のバッテリーを搭載していますので、むやみに触らないでください」「自分で対処せず販売店に相談してください」と書いています。

この記事は、①起きた直後に何をするか、②どこまで浸かったかで何が変わるか、③車両保険で水没はどう扱われるか、④全損になったときのお金、⑤水没していなくても冠水路を通ったあとに何を点検するか、を公的資料と実際の約款で整理します。

この記事が扱わないこと

あなたのケースで保険金が出るかどうかの判断はしません。契約の型・特約・損害の状態が分からなければ決められませんし、判断するのは加入先の保険会社です。流された車が他人の物を壊した場合の賠償・過失割合・示談も扱いません。水没対策グッズなど個別商品の評価もしません。

「水深何cmまでなら走れるか」も書きません。国土交通省の資料は「自動車は、水深が深い場所を走行できるように設計されていません」から始まっています。冠水路は入らないのが公式の答えです。

起きた直後にやること・やらないこと

順番はこうです。

図1/起きた直後の手順
車が浸水したあとに取るべき手順 車が浸水したあとの手順は4つ。第一に、エンジンをかけない、かけ直さない。感電事故や電気系統のショートによる車両火災のおそれがあり、外から見て無事でも同じ。国土交通省・JAF・各メーカーが同じ内容を案内している。第二に、ガソリン車ならバッテリーのマイナス側の端子を外し、外した端子はテープで絶縁する。第三に、自走させず販売店・整備工場に相談する。運転できても点検整備を受けるよう国土交通省が求めている。第四に、保険会社に事故の発生を通知する。約款上の義務として直ちに通知することが定められている。ただしハイブリッド車・電気自動車・プラグインハイブリッド車・燃料電池車は高電圧のバッテリーを搭載しているため、バッテリーの端子外しも含めて自分で対処せず、販売店や整備工場に任せる。 水が引いたあと・車を回収したあとも同じ ① エンジンをかけない・かけ直さない 感電事故や、電気系統のショートによる車両 火災のおそれ。外から見て無事でも同じ 国土交通省・JAF・各メーカーが同じ内容を案内 ② バッテリーのマイナス端子を外す 外した端子はテープで絶縁する(ガソリン車) ③ 自走させず、販売店・整備工場に相談 運転できても点検整備を受ける(国土交通省) ④ 保険会社に事故の発生を通知する 約款上の義務。「直ちに」と定められている HV・EV・PHEV・FCVは自分で触らない 高電圧のバッテリーを積んでいる。端子外しも 含めて、販売店・整備工場に任せる

国土交通省「浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ」および同省 2019年11月27日 報道発表の別紙、JAF「自動車が冠水路や高潮で浸水してしまったら?」、東京海上日動『総合自動車保険の約款』基本条項 第3節 第1条をもとに構成しました。

① エンジンをかけない・かけ直さない

理由は、2つの公的資料が同じことを書いています。

  • 国土交通省:感電事故や電気系統のショート等による車両火災が発生するおそれ
  • JAF:水が引いたからといって乗り込んでエンジンをかけると、破損や感電の危険がある

トヨタ自動車も「水に浸かったおクルマによる感電事故や電気系統のショートなどによる車両火災を防止するために、エンジンをかけることはおやめください」、三菱自動車も「外観に問題がなくても」同様に案内しています。メーカーが違っても結論は同じです。

② ガソリン車なら、バッテリーのマイナス側の端子を外す

国土交通省は「発火するおそれがありますので、バッテリーの端子(マイナス側)を外してください」とし、外した端子はテープで絶縁してバッテリーに触れないようにする、としています。

ただしこれはHV・EV・PHEV・FCVには当てはまりません。これらは高電圧のバッテリーを搭載しているため、国土交通省・トヨタ・三菱いずれも「自分で対処せず、販売店や整備工場に相談してください」としています。

③ 自走させず、販売店・整備工場に相談する

国土交通省は「一度浸水した車両は、運転可能であっても、電気装置等が損傷を受けているおそれがあるため、自動車整備工場等で点検整備を受けるようにしてください」としています。動くかどうかは判断材料になりません。

④ 保険会社に事故の発生を通知する

契約している保険会社への通知は、約款上の義務として定められています。東京海上日動の約款(基本条項 第3節 第1条)は、事故が発生したことを知った場合に履行すべきこととして「事故の発生の日時、場所および事故の概要を直ちに当会社に通知すること」を挙げています。

エンジンをかけることは、保険の扱いにも関わりうる

同じ約款の同じ表の①には、「損害の発生および拡大の防止に努めること」が挙がっています。そして第2条(1)は、正当な理由がなくこれに違反した場合、「損害の発生または拡大を防止することができたと認められる損害の額」を差し引いて保険金を支払うと定めています。

断定できないこと

これは「エンジンをかけたら保険金が減額される」という意味ではありません。実際にどう扱われるかを決めるのは保険会社で、条文の書き方も各社で異なります。ここで言えるのは、始動を試して壊れ方を広げることには、修理費が上がる以外の面もありうる、ということだけです。迷うぐらいなら、かけない側に倒してください。

どこまで浸かったかで、何が変わるか

国土交通省が2019年11月27日に出した報道発表「水深が床面を超えたら、もう危険!」の別紙が、深さごとに何が起きるかを整理しています。基準になっているのは床面(フロア)です。

図2/浸水の深さと、そこで起きること(基準は床面)
浸水の深さごとに車に起きること 前提として、浸水による車両への影響は車両形状や設計により異なり、特に車高が低い車両では影響を受けやすい。そのうえで、水深が床面より下でも、走行速度が上がると巻き上げた水が吸気口からエンジンに入り、停止することがある。水深が床面を超えるかドアの下端にかかると、車内が浸水して電気装置が故障するおそれ、マフラーから浸水してエンジンルームが損傷するおそれがあり、電動の窓や自動スライドドアが動作しなくなる、エンジンやモーターが停止して再始動できなくなる、車外の水圧で内側からドアを開けにくくなる。水深がドア高さの半分を超えると、内側からドアがほぼ開けられなくなる。ただし車内外の水位が同じになるまで浸水すると内側からドアが開くようになる。水深が運転者席の座面を超えると、保険の約款ではこの高さが全損の判定に使われることがある。またタイヤが完全に水没すると車体が浮いて移動が困難になり、水流がある場合は車両が流されるおそれがある。 ※浸水による影響は、車両形状や設計により異なる。  特に車高が低い車両では影響を受けやすい。 浅い 深い ① 床面より下でも 速度が上がると、はね上げた水が吸気口 からエンジンに入り、停止することがある ② 床面を超える/ドアの下端にかかる ・車内が浸水して電気装置が故障するおそれ ・マフラーから浸水しエンジンルームが損傷 ・電動の窓やスライドドアが動かなくなる ・エンジンやモーターが停止し再始動できない ・車外の水圧で内側からドアを開けにくくなる ③ ドア高さの半分を超える ・内側からドアがほぼ開けられなくなる  車内外の水位が同じになるまで浸水すると開く ④ 運転者席の座面を超える ・保険の約款では、この高さが全損の判定に  使われることがある(地震等の特約の例)

①〜③は国土交通省 2019年11月27日 報道発表の別紙「自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について」。④は東京海上日動『総合自動車保険の約款』の「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」第2条(2)⑥。同別紙は「浸水による車両への影響については、車両形状や設計により異なります。特に、車高が低い車両では影響を受けやすい」と断っています。このほか、タイヤが完全に水没すると車体が浮いて移動が困難になり、水流がある場合は車両が流されるおそれがあるとされています。

「座面を超えたか」は、保険の側でも使われる高さ

深さの目安として、保険の約款にも具体的な高さが出てきます。東京海上日動の「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」は、全損と判定する状態の1つとして「運転者席の座面を超える浸水を被った場合」を挙げています。

この条文が適用されるのは地震・噴火・津波の場合だけですが、座面が1つの節目として扱われていることは、自分の車の状態を人に説明するときの目安になります。

中古車の世界での線引きは「室内フロア以上」

自動車公正取引協議会が2020年12月に出した資料によれば、一般財団法人日本自動車査定協会の中古自動車査定基準では、冠水車とは「集中豪雨や洪水などにより、室内フロア以上に浸水したもの、または、その痕跡により商品価値の下落が見込まれるもの」とされています。

同資料は、中古車を販売する際に冠水車であることを表示・説明しなかった場合、優良誤認にあたる不当表示として公正競争規約に違反し、景品表示法上も問題になる、としています。将来売るときにも効いてくる線引きなので、どこまで浸かったかは記録しておく価値があります。

走り抜けられても、壊れていないという意味ではない

JAFが2024年10月28〜30日に行った冠水路走行テスト(EV・HV・ガソリン車)の、ガソリン車の結果です。

先に、この表の読み方

これは「入ってよい条件」の表ではありません。JAF自身の結論は、車種を問わず冠水路には進入しないこと、です。実際の冠水路は水深も路面の状況も見えないので、表の数字を現場で当てはめることはできません。

この表は「入ってよい条件」ではない。JAFの結論は、車種を問わず冠水路に進入しないこと
浸水深進入速度起きたこと
30cm10km/h通過。目立った不具合は確認されず
30cm30km/h通過したが、エンジンルームと車内に浸水
60cm10km/h通過したが、エアクリーナーが一部濡れる
60cm30km/h通過したが、エアクリーナーが完全に水没・車内に大量浸水
60cm40km/h28.5mで停止。車内に大量浸水

JAFユーザーテスト「冠水路走行テスト ~電気自動車(EV)・ハイブリッド車(HV)・ガソリン車で検証~」(2024年10月28〜30日・株式会社ジェイテクト伊賀テストコース)。くり返しますが、この表は「入ってよい条件」ではありません。国土交通省も「自動車は、水深が深い場所を走行できるように設計されていません」としています。

より古いJAFのテストでは、水深60cmをセダンが時速10kmで進入して31mで、SUVが時速30kmで進入して10mでエンジンが停止しています。いずれも原因は、エアインテークを通してエンジン内部に水が入ったためと報告されています。同じ水深でも、速度が上がれば巻き上げる水の量が増えます。

車内に水が入ってきたら

国土交通省の同じ資料は、(一社)日本自動車工業会の資料を引いて次のように案内しています。まず落ち着いてシートベルトを外し、窓を開けて脱出する。シートベルトが外れない場合はシートベルトカッターで切断する。窓が開かない場合は、水面より上にあるドアガラスまたはリヤガラスを緊急脱出ハンマーで割って脱出する。ガラスが割れない場合は、車内外の水圧差がなくなるまで浸水するのを待ち、ドアを開けて脱出する。

同資料は、フロントガラスおよび一部のドアガラスは合わせガラスのため脱出用ハンマーでは割れない(どのガラスがそうかは各メーカーに確認)とも注記しています。

車両保険で、水没は補償されるか

対象になるもの・ならないもの

東京海上日動の約款(車両条項 第1条)は、車両保険が支払われる損害を「衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、台風、洪水、高潮その他偶然な事故によってご契約のお車に生じた損害」と定めています。同条項の欄外注記にも「車両保険では、『台風、洪水または高潮』による損害は補償されます」と明記されています。

一方、同 第3条(1)③は「地震もしくは噴火またはこれらによる津波」によって生じた損害には保険金を支払わない、としています。これは各社共通で、三井住友海上・チューリッヒ・損保ジャパンも同じ整理を公表しています。損保ジャパンは理由について、「災害による損害が甚大で広域におよんだ場合、損害額が極めて高額になる可能性があり、保険制度の安定的な運用が困難になるため」と説明しています。

図3/水没の原因によって、行き先が3つに分かれる
水没が車両保険でどう扱われるか 車両保険の対象になるのは、台風・洪水・高潮による損害と、その他の偶然な事故による損害。主要各社の公表値ではエコノミー型でも台風・洪水・高潮は対象。車両保険では対象にならないのは、地震・噴火・これらによる津波で、一般型でも対象外であり約款に明記されている。その代わり別枠の特約として、地震・噴火・津波の車両全損時一時金があり、全損になったときに50万円などが支払われる。名称・金額・自動付帯かどうかは会社ごとに異なる。 同じ「水没」でも、原因で行き先が変わる 車両保険の対象になる 台風・洪水・高潮による損害 その他の偶然な事故による損害 エコノミー型でも対象(主要各社の公表値) 車両保険では対象にならない 地震・噴火・これらによる津波 一般型でも対象外。約款に明記されている 別枠の特約で手当てする 地震・噴火・津波の車両全損時一時金 全損になったときに50万円など 名称・金額・自動付帯かは会社ごとに異なる

東京海上日動『総合自動車保険の約款』車両条項 第1条・第3条(1)③および「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」、三井住友海上「車両保険(一般補償・10補償限定)」、チューリッヒ「車両保険のエコノミー型と一般型の違い」、損保ジャパンの公表内容によります。金額・名称・付帯の条件は各社で異なります。

なお「台風、洪水または高潮」は約款で定義されている用語です。東京海上日動の約款は気象庁の発表に基づくとして、洪水を「河川の水位や流量が異常に増大することにより、平常の河道から河川敷内に水があふれること、および、破堤または堤防からの溢水が起こり河川敷の外側に水があふれること」と定義しています。

地震・噴火・津波は「別枠の特約」になっている

対象外である代わりに、専用の特約が用意されています。東京海上日動の「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」は、地震・噴火・これらによる津波で契約車が全損になった場合に、1回の事故につき50万円を支払うものです。損保ジャパンにも同名の特約があり、こちらも50万円(ただし車両保険金額が上限)と公表されています。三井住友海上は「地震・噴火・津波『車両全損時定額払』特約」という名称で、50万円(車両保険金額が50万円未満の場合は車両保険金額)としています。

名称・金額・自動付帯かどうかは各社で異なります。自分の証券に付いているかどうかは、証券と約款で確認してください。

一般型とエコノミー型で、水没の扱いは変わるか

3社の公表値を突き合わせたもの。商品ごとに違うので、自分の証券と約款で確認すること
損害の原因一般型エコノミー型
台風・洪水・高潮
火災・爆発
盗難
落書き・いたずら・窓ガラス破損
飛来中・落下中の他物との衝突
相手が分かる車との衝突・接触
当て逃げ(相手が分からない)×
電柱・ガードレール等との衝突×
墜落・転覆×
自転車・歩行者・動物との接触各社で異なる
地震・噴火・津波××

三井住友海上「車両保険(一般補償・10補償限定)」とチューリッヒ「車両保険のエコノミー型と一般型の違い(ワイドカバー型/限定カバー型)」の公表値を突き合わせたものです。両社で表現が異なる項目は、意味が対応する行にまとめました。「当て逃げ」はチューリッヒの区分(三井住友海上の表には独立の行がありません)。商品名も補償の組み合わせも各社で異なります。

主要各社の公表内容では、台風・洪水・高潮はエコノミー型でも対象です。東京海上日動の「車両危険限定補償特約(A)」も、補償する損害の1つに「台風、たつ巻、洪水または高潮によって生じた損害」を明記しています。エコノミー型で外れるのは、主に当て逃げと単独事故(電柱・ガードレール等との衝突、墜落・転覆)のほうです。

下から2行目が、実際に各社で割れているところです。三井住友海上の「10補償限定」は自転車等・歩行者・動物との衝突・接触を対象としていますが、チューリッヒの「限定カバー型」は自転車との接触や、車以外の物・動物・人との接触を対象外としています。

「エコノミー型なら必ず出る」ではない

日本損害保険協会の一般的な解説(損害保険Q&A 問15)では、「車対車・限定危険」型について自然災害を対象外とする整理も示されています。ここに挙げた3社の公表値と食い違うのは、商品の設計が会社ごとに違うからです。最終的な答えは、自分の証券と約款にしかありません。

使うと等級はどうなるか

台風・洪水・高潮による損害で車両保険を使った場合、3等級ダウンではなく1等級ダウンです。東京海上日動の約款は、1等級ダウン事故に該当する車両事故として「火災・爆発・窓ガラス破損、盗難、騒じょうや労働争議に伴う暴力行為または破壊行為、台風、たつ巻、洪水、高潮、落書、いたずら、飛来中または落下中の他物との衝突、その他偶然な事故」を挙げています。三井住友海上も損保ジャパンも同じ扱いを公表しています。

事故有係数適用期間の加算も、3等級ダウン事故の3年に対して1等級ダウン事故は1件につき1年です(同約款)。使うか使わないかの損得計算は、この差を踏まえて行うことになります。分岐点の出し方は 車の保険、修理費いくらから使うべきか|等級ダウンとの損得計算 にあります。

全損になったときのお金

全損とは何か

東京海上日動の約款(車両条項 第4条)は、次のいずれかを全損としています。

  • 修理費が保険価額以上となる場合
  • 損傷を修理できない場合
  • 盗取され発見されなかった場合

「修理できないほど壊れた」だけでなく、修理費が車の価値を上回った時点で全損になる、というのが要点です。水没は電気装置が広範囲に及ぶため、外板がきれいでも修理費が積み上がりやすい類型です。

支払われるものは3つに分かれる

下2つは特約。付いていなければ支払われない。金額も名称も各社で異なる
支払われるもの上限の考え方
車両保険金車両保険金額(協定保険価額)が上限
全損時諸費用(特約)保険金額の10%・20万円限度(三井住友海上の例)
地震等の一時金(特約)50万円(東京海上日動・損保ジャパンの例)

下2つは特約なので、付いていなければ支払われません。いずれも名称・金額・付帯の条件は各社で異なります。

三井住友海上は全損時諸費用を「保険金額の10%(20万円限度)」とし、車両保険金額が100万円以下の場合は一律10万円としています。同社の「GKクルマの保険」では車両保険を付ければ自動セット、「自動車保険・一般用」ではセット可能な特約、と同じ会社の中でも商品によって扱いが違います。名称も「全損時諸費用特約」「車両全損時諸費用補償特約」など各社で異なります。

実際にはいくら払われているのか

日本損害保険協会が公表している災害別の支払保険金調査から、車両保険の分だけを取り出すと次のようになります。

災害台数支払保険金
令和元年台風19号(東日本台風)48,038台645億1,993万円
平成30年7月豪雨25,110台283億743万円
令和2年7月豪雨10,804台137億4,117万円

日本損害保険協会「近年の風水害等による支払保険金調査結果(見込み含む)」の全社合計(外国損保会社含む)のうち、車両保険(商品車含む)の欄。令和元年台風19号は2020年3月末現在の年度末調査結果。

検算

1台あたりの支払保険金は、令和元年台風19号が 64,519,930千円 ÷ 48,038台 = 1,343千円(約134万円)、平成30年7月豪雨が 28,307,431 ÷ 25,110 = 1,127千円(約113万円)、令和2年7月豪雨が 13,741,166 ÷ 10,804 = 1,272千円(約127万円)。いずれも100万円台です。

これは分損も含めた平均なので「全損が大半」と読むことはできません。ただし、擦り傷の修理とは桁が違うことは分かります。

水没していなくても、通ったあとに見ること

「異音がしているが、家までは着いた」という状態が、いちばん判断に困ります。国土交通省の答えははっきりしています。

国土交通省 2019年11月27日 報道発表 別紙

一度浸水した車両は、運転可能であっても、電気装置等が損傷を受けているおそれがあるため、自動車整備工場等で点検整備を受けるようにしてください。

「動いているから様子を見る」は、ここでは選択肢に入っていません。以下は、点検を待つあいだに自分で確認できることです。

見るところ何を確認するか
ブレーキ水たまり走行後は効きが悪くなることがある。ブレーキペダルを軽く踏んで効きを確認する
室内の床フロアやシートレールに、通常の使用では付かない汚れやシミがないか
錆・腐食シートレール、ペダル類のブラケット、ワイヤーハーネスのコネクタなど、通常の使用では錆びない箇所
におい室内やエアコン作動時に、泥やカビの臭いがしないか
警告灯点灯・点滅しているものがないか(EV・HVは特に)

ブレーキの項目は日産自動車の取扱説明書「水たまり走行後はブレーキの効きを確認」より。床・錆・においの3項目は、自動車公正取引協議会が挙げている冠水車の特徴(2020年12月4日)そのままです。

床・錆・においは、もともと中古車を見分けるための基準ですが、自分の車がどの程度浸水したかを推し量る材料としても同じように使えます。

日産の取扱説明書は、ブレーキの効きが悪いときの対処として「周囲の安全に十分注意しながら低速で走行し、効きが回復するまでブレーキペダルを繰り返し軽く踏んでください」としています。効きが戻らない場合は、そのまま走り続けないでください。

そして、点検した日・見てもらった内容・交換した部品は残しておいてください。冠水歴は将来売るときに関わりますし、あとから不具合が出たときに「いつ何をしたか」が説明できるかどうかで話の進み方が変わります。

まとめ

  • エンジンをかけない。感電事故や電気系統のショートによる車両火災のおそれがある(国土交通省)。外から見て無事でも同じ。JAFも「各部の点検を行うまでは始動させない」としている
  • HV・EV・PHEV・FCVは高電圧バッテリーを積んでいるため、自分で対処しない。バッテリー端子外しも含めて販売店・整備工場に任せる
  • ガソリン車なら、バッテリーのマイナス側の端子を外して絶縁する(国土交通省)
  • 深さの節目は床面(フロア)。超えると車内が浸水して電気装置が故障し、マフラーからも浸水する。ドアの下端にかかると内側からドアを開けにくくなり、ドア高さの半分を超えるとほぼ開けられなくなる
  • 床面より下でも、速度が上がると吸気口から浸水してエンジンが停止しうる。JAFのテストでは水深60cm・時速40kmでガソリン車が28.5mで停止した
  • 中古車の世界では「室内フロア以上に浸水したもの」が冠水車(日本自動車査定協会の査定基準)。販売時に表示・説明しないと不当表示になる
  • 車両保険では台風・洪水・高潮による損害は補償される(東京海上日動の約款に明記)。地震・噴火・これらによる津波は対象外で、別枠の特約(50万円など)で手当てされている
  • エコノミー型でも台風・洪水・高潮は対象というのが主要各社の公表内容。外れるのは主に当て逃げと単独事故のほう。ただし商品ごとに異なるので証券と約款で確認する
  • 使った場合は1等級ダウン事故(3等級ではない)。事故有係数適用期間の加算は1件につき1年
  • 全損=修理費が保険価額以上/修理できない/盗難で発見されない。修理費が車の価値を超えた時点で全損になる
  • 全損時諸費用は保険金額の10%・20万円限度(三井住友海上の例)。名称・金額・自動付帯かは各社で異なる
  • 大きな風水害での車両保険の支払は1台あたり100万円台(令和元年台風19号で約134万円・検算値)
  • 水没していなくても、一度浸水した車は運転できても点検整備を受ける(国土交通省)。ブレーキの効き、室内の床の汚れ、錆、におい、警告灯を確認する

どこまで浸かったか、いつ誰に見てもらったか、何を交換したか。この3つを日付つきで残しておくと、修理の相談でも保険のやり取りでも、将来売るときにも、同じ記録がそのまま使えます。

出典

  1. 国土交通省「浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ」
  2. 国土交通省「水深が床面を超えたら、もう危険! - 自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について -」(2019年11月27日)
  3. 国土交通省 同 報道発表 別紙「自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について」
  4. JAF「自動車が冠水路や高潮で浸水してしまったら?」
  5. JAF「車内まで冠水した自動車の扱いと対処方法」
  6. JAFユーザーテスト「冠水路走行テスト ~電気自動車(EV)・ハイブリッド車(HV)・ガソリン車で検証~」(2024年10月28〜30日実施)
  7. JAFユーザーテスト「冠水路走行テスト」
  8. トヨタ自動車「クルマが水没したり、道路が冠水したときの対応方法を教えて。」
  9. 三菱自動車「冠水や水没した車の取り扱いについて教えてください。[車種全般]」
  10. 日産自動車 取扱説明書「水たまり走行後はブレーキの効きを確認」
  11. 東京海上日動『自動車 ご契約のしおり -総合自動車保険の約款-』(2026年1月1日以降始期用)
  12. 三井住友海上「車両保険(一般補償・10補償限定)」
  13. 三井住友海上「『全損時諸費用特約』とは何ですか?」
  14. チューリッヒ「車両保険のエコノミー型と一般型の違い」
  15. 損保ジャパン「自動車保険の補償対象となる自然災害は?等級はどうなる?」
  16. 日本損害保険協会「損害保険Q&A くるまの保険 問15 任意の自動車保険」
  17. 日本損害保険協会「近年の風水害等による支払保険金調査結果(見込み含む)」
  18. 自動車公正取引協議会「『冠水車』についての虚偽の表示や不表示は、『不当表示』です」(2020年12月4日)