この数字は等級と年間保険料さえ分かれば自分で計算できます。式と早見表で示します。
分岐点の式は1行
分岐点の修理費 = 免責金額(自己負担額) + 事故有係数適用期間中の保険料増加総額
保険を使っても免責金額は自腹です。つまり保険を使って浮くお金は「修理費 − 免責金額」。これが後年の保険料増加総額を上回るかどうかを見ればよい、という単純な比較になります。
問題は右辺の第2項です。ここが「等級が3つ下がる」だけでは終わらない仕組みになっています。
下がるのは等級だけではない
自動車保険の保険料は、損害保険料率算出機構が算出する参考純率をもとに各社が決めています。同機構は、契約者の過去の無事故年数や事故件数に応じてリスクが異なるとして等級区分を設け、さらに7〜20等級については「前年契約で事故がなかった契約者」と「事故があった契約者」を細分化しています。
この後者に適用されるのが「事故有」の割増引率です。適用される年数を事故有係数適用期間と呼び、ルールは次のとおりです。
- 3等級ダウン事故が1件生じると 3年 加算される
- 1等級ダウン事故が1件生じると 1年 加算される
- その後、事故の有無にかかわらず1年経過ごとに1年ずつ減る
- 上限は 6年
つまり3等級ダウン事故を1件起こすと、等級が3つ下がったうえに、3年間は同じ等級のなかでも割引率の低いほうが適用されるということです。
参考純率の割増引率
損害保険料率算出機構の自動車保険参考純率(2024年7月時点)として公表されている割増引率は次のとおりです。
横にスクロールできます
| 等級 | 無事故 | 事故有 |
|---|---|---|
| 1 | +108% | — |
| 2 | +63% | — |
| 3 | +38% | — |
| 4 | +7% | — |
| 5 | -2% | — |
| 6 | -13% | — |
| 7 | -27% | -14% |
| 8 | -38% | -15% |
| 9 | -44% | -18% |
| 10 | -46% | -19% |
| 11 | -48% | -20% |
| 12 | -50% | -22% |
| 13 | -51% | -24% |
| 14 | -52% | -25% |
| 15 | -53% | -28% |
| 16 | -54% | -32% |
| 17 | -55% | -44% |
| 18 | -56% | -46% |
| 19 | -57% | -50% |
| 20 | -63% | -51% |
※これは参考純率の数値であり、実際に各保険会社が使用する割増引率はこれとは異なります。以下の計算も、あくまでこの表を使った試算例として読んでください。
3年間でいくら増えるか
15等級(無事故・事故有係数適用期間0年)の人が3等級ダウン事故で保険を使った場合を追いかけます。
保険を使った場合
翌年12等級・事故有(-22%)→ 13等級・事故有(-24%)→ 14等級・事故有(-25%)→ 4年目に15等級・無事故(-53%)へ復帰
使わなかった場合
翌年16等級(-54%)→ 17等級(-55%)→ 18等級(-56%)
割引率の差は1年目32ポイント、2年目31ポイント、3年目31ポイントで合計94ポイントです。現在の年間保険料をP円とすると、等級適用前の保険料は P ÷ 0.47 なので、
3年間の増加総額 = P ÷ 0.47 × 0.94 = 約2.0 × P
年間保険料6万円なら約12万円。同じ計算を等級ごとに行うと次のようになります。
横にスクロールできます
| 現在の等級 | 3年間の増加総額(現在の年間保険料の何倍か) |
|---|---|
| 6等級 | 約1.75倍 |
| 10等級 | 約1.89倍 |
| 15等級 | 約2.00倍 |
| 18等級 | 約1.80倍 |
| 20等級 | 約1.32倍 |
高い等級ほど倍率が小さくなるのは、17〜19等級の「事故有」の割引率が比較的深く設定されているためです。
金額に直すとこうなります。
横にスクロールできます
| 現在の等級 | 年間保険料4万円 | 6万円 | 10万円 |
|---|---|---|---|
| 6等級 | 約70,000円 | 約105,000円 | 約175,000円 |
| 10等級 | 約75,600円 | 約113,400円 | 約189,000円 |
| 15等級 | 約80,000円 | 約120,000円 | 約200,000円 |
| 18等級 | 約72,000円 | 約108,000円 | 約180,000円 |
| 20等級 | 約52,800円 | 約79,200円 | 約132,000円 |
※等級以外の条件(車両の型式別料率クラス、年齢条件、走行距離区分、各社の料率改定など)が3年間変わらないと仮定した試算です。実際にはこれらも動くため、正確な金額は加入先が出す更新見積で確認してください。
分岐点の早見表
上の増加総額に免責金額を足したものが分岐点の修理費です。年間保険料6万円のケースで示します。
横にスクロールできます
| 現在の等級 | 免責0円 | 免責5万円 | 免責10万円 |
|---|---|---|---|
| 6等級 | 約105,000円 | 約155,000円 | 約205,000円 |
| 10等級 | 約113,000円 | 約163,000円 | 約213,000円 |
| 15等級 | 約120,000円 | 約170,000円 | 約220,000円 |
| 20等級 | 約79,000円 | 約129,000円 | 約179,000円 |
読み方はシンプルです。修理費がこの金額を下回るなら、自費で直したほうが手元のお金は残ります。 上回るなら保険を使う側に傾きます。
なお修理費が免責金額そのものを下回る場合は、そもそも保険金が出ないので検討の余地がありません。
事故の種類で分岐点は変わる
保険を使った事故は3つに分類されます。
3等級ダウン事故
他人にケガをさせた(対人賠償)、他人の車にぶつけた(対物賠償)、当て逃げにあって車両保険を使ったなど。1等級ダウン・ノーカウントに当たらないものはすべてここです。事故有係数適用期間は3年加算されます。
1等級ダウン事故
盗難、火災、台風・水災などの自然災害、落書き、飛び石によるガラス破損などで車両保険を使った場合です。事故有係数適用期間は1年加算です。
同じ15等級・年間保険料6万円でも、1等級ダウン事故なら増加総額は約3.7万円(増加は1年分のみ)にとどまります。分岐点は3等級ダウンの場合よりかなり低くなります。
ノーカウント事故
人身傷害保険、搭乗者傷害保険、個人賠償責任特約、ファミリーバイク特約、弁護士費用特約、ロードアシスタンス特約のみの支払いなど。等級は下がらず、翌年は通常どおり1等級上がります。このタイプは損得計算そのものが不要で、使わない理由がありません。
3年で終わりではない点に注意
上の試算は事故有係数適用期間の3年分だけを数えています。しかし等級そのものは3つ低いままで、20等級に追いつくまで差は残ります。
15等級の例を4年目以降まで延ばすと、差の累計は年間保険料の約2.7倍になります(3年分の2.0倍+残りの約0.7倍)。したがって表の金額は下限の見積りと考えてください。分岐点はもう少し高いところにある、という方向に効きます。
使うかどうかは後から決められる
事故が起きたとき、保険会社への連絡(事故報告)と保険金の請求は別の行為です。東京海上ダイレクトの解説によれば、原則として保険金が支払われる前であれば請求を取り下げることが可能で、取り下げた場合は請求がなかったものとみなされ、翌年の等級は通常どおり1等級上がります。支払い後の取り下げはできません。
実務上の順番はこうなります。
- まず保険会社に連絡する(報告は契約上の義務。連絡しただけでは等級は下がらない)
- 修理費の見積を取る
- 現在の等級・年間保険料・免責金額から分岐点を計算する
- 見積が分岐点を下回るなら請求せず自費修理を選ぶ
※取り扱いは保険会社・契約内容によって異なる場合があります。判断の前に必ず加入先に確認してください。
ここで取る修理費の見積も、項目ごとに分けて中身を確かめるのが基本です。同じ見方を車検の見積に当てはめる手順は、車検費用の内訳|法定費用と整備費用で整理しています。
損得計算をしてはいけないケース
ここまでは自分の車の修理費、つまり車両保険の話でした。相手のいる対人・対物賠償は別です。
賠償額は数百万円から、人身では億単位に達することもあります。この規模の金額に対しては、3年間で十数万円の保険料増加は比較の対象になりません。相手への賠償が絡む事故では、損得計算をせずに保険を使うのが基本です。
損得計算が意味を持つのは、単独事故や当て逃げなど自分の車の修理費が数万円〜数十万円で収まる場面に限られます。
まとめ
- 分岐点の修理費 = 免責金額 + 事故有係数適用期間中の保険料増加総額
- 3等級ダウン事故の増加総額は、現在の年間保険料のおおむね1.3〜2.0倍(3年分)
- 15等級・年間保険料6万円・免責5万円なら、分岐点は約17万円
- 1等級ダウン事故(盗難・落書き・飛び石など)は1年分のみで分岐点は低い。ノーカウント事故は計算不要
- 4年目以降も等級差は残るため、表の金額は下限と考える
- 保険金が支払われる前なら請求は取り下げられる。見積を見てから決めればよい
- 相手への賠償が絡む事故では損得計算をしない
保険料の更新額と、車ごとの修理費を年単位で記録しておくと、次に同じ判断をするときに自分の実額で比較できます。